散文詩 「弥勒菩薩 或いは兜率天」

 夕暮れの街を歩いて、僕は目の前に、鏡をかざす。すると、そこには、この世のものならぬ世界が遠ざかっていくのが見える。鏡から目を戻せば、僕は再び現実の世界へと歩みを運んでいく。
 突然、僕は、水銀灯とナトリウム・ランプの下で、見えない鞘から、見えない剣を抜き放つ。
 その剣とは、或いは、不動明王や、十二神将の持つところの、あの降魔成道の剣かも知れないし、また或いは、鉄の時代に生きる、すべての人が思い描くところの、あの霊力に満ちた剣であるかも知れない。
 そして、その剣で、僕は切り裂くのだ!
 目の前に立ちふさがる、無明の闇を。
 しかし、その実は、僕は哀れな弥勒菩薩なのであり、救うべき衆生のことを考えつつ、唇に皮肉な笑いを浮かべながら、畢竟、夕方の兜率天を歩いて行くのである。