前漢正卒と材官、対匈奴戦役、紀元前2世紀末、西北辺境塞外
Infantry Soldiers, Desert Frontier, Western Han Period, 2nd Half of 2c.B.C.


 前漢の武装は、基本的には秦代歩兵のそれを踏襲しているが、若干の軽量化がはかられているようである。中央の正卒(選抜正規歩兵)の胸甲は、鉄ないし皮革の甲片を、組紐あるいは皮紐で結束している。主要な兵器は戟で、これは刺突と引っ掛けの両用途を兼ねた。後方の正卒は、胸甲に加えて、肩甲をつけている。興味深いのはこの二人が鉢巻に重ねて着用する頭巾で、なめし革か布かはわからないが柔らかい材質であり、秦代にはむしろ騎兵の着用するものであって、秦代歩兵は無帽のまま、長髪を複雑に結い上げていた。
 向って左の材官(弓兵)はやはり選抜正規兵の一兵種で、弩(ボウガン)を使う。弩は中国の秘密兵器の一つで、照準までついた青銅製の引き金部を持ち、国家指定の兵器工場(工官)で厳正な規格管理のもとに、ロット番号まで付されて製作されていた。この材官の階級はやや高いと設定したので、かれは小ぶりの甲片を組み合わせた胸甲をつけ、さらにその下部の甲片は、下腹部防御のため、また伸縮の便のために、ラメラー(重層)構成により縅し下げられる。
 後方の砦(塞)からは、匈奴の侵入を急報する狼煙が上がっている。この砦は、兵士に食糧を供給する屯田システムの管理も兼ねた軍政庁舎(侯官)で、中国内地の役所風の建物も見える。

……と、英国 Osprey 社出版の、"Men-at-arms series"解説風に書いてみました。
水彩画をスキャナーで取り込み。風景描写は、チベットやモンゴルでスケッチしてきたのが役立ちました。