ハブと蟻の話

これは、沖縄県中頭郡読谷村字都屋で「琉球弧を記録する会」を主宰する村山友江さんが記録した、伝承昔語りです。原文は当然「島クトゥバ」(島ことば、つまり沖縄語)ですが、村山さんが現代日本語に翻訳したものに、きぬのみちがさらに表記上の微調整を加えました。なおこれは、「童話同人 ソムニウム」サイトから移設したものです。

『ハブと蟻の話』

(採録原文)
 ハブとぅ蟻ぬ話ぃさびら。
 山ぬ山道ぐゎーんかい、ハブぬ渦巻ちゃーに、人ぬ通いし待っちょーたんり。
 あんさぐとぅ、此ぬ蟻ぐゎー、
「いぇー、ハブよー、貴方や何んち其処んかいや、輪巻ち人待ちょーが。」
りちゃぐとぅ。
「近頃や、私家ん壊さってぃ、山ん全部壊さりやーに、なー行ちゅる所ぉ無らん。此ぬ人間のーよー、全部あぬー私達ぁ家ぁ壊ちゃい、山壊ちゃいすぐとぅ。此処から通いぬ人間のー、私ぁ直ぐ噛りわるやっさーりちる、待ちょーんれー。」りち、蟻んかい言ちゃぐとぅ。
「いぇーハブよー、貴方や物ん思ん。人間のー神様とー同ぬ物るやんどー。人間噛いねー、直ぐ一大事やしが。」
りちゃぐとぅ、
「何やんりー蟻ぐゎー、貴方やうっぴんぐゎーそてぃやー、私にんかい口かないんなー。」
りち。えーなー、ハブとぅ蟻と喧嘩しねーらん。
 なーうぬ、蟻やワジワジーさーなかい、
「いぇー、蟻ぐゎーぬ親兄弟ん全部来わ。早くなーなー、此処喧嘩始まとーしが。」
りち、あびたれー。なー、何万ぬん、何千万ぬん、其ぬ蟻ぐゎーが来なかい、ハブよや、目から耳んかいなー、何処んくいんかい直ぐ入っちゃぐとぅ、其ぬハブぉ負きやーに。
「アキサミヨーナー、うんぐとーぬ苦しい事ん有る。其ぬ蟻ぐゎーや落とぅちん何処にん行かんれー。」
りち。チンカンモンカイそーぬとぅくるなかい、青虫が来に、其ぬ虫ぐゎーが、
「いぇー、ハブさん。貴方ややー知恵のー無らん。うんぐとーぬうっぴぐゎーぬちょーぬ蟻ぐゎーんかい馬鹿らってぃ、あんし苦さすんなー。早くなーなー、側ぬクムイんかい入やーにかい、其ぬ蟻ぐゎー全滅せーわ。」
りち言ちゃぐとぅ。
「いー、有難う。」
りやーにかい、其ぬハブォ側んかい有ぬクムイんかい入っちゃれ、其ぬ蟻ぐゎーや全部居らん成てぃ。
「あい、有難う虫さんよ、なー私ねー命助かとーさ。」
りち、ハブぉ嬉さそーしが、蟻ぐゎーや死じうらん。此ぬ生き残とーる蟻ぐゎーぬ二ち、三ちが、
「なーうれー、仇討ったんねーならんむー。」
りち、ワジワジーさーに。
「此れーなー、虫ぬる悪っさぐとぅ、虫がる其れー習ちぇーぐとぅ。」
りやーに、虫見じーねー、其ぬ蟻ぐゎーや、直ぐ今やたんてーまん、皆あびてぃちゃーに虫喰いんりち。虫ぐゎーかい直ぐたっくゎーやーなかい、噛ん殺すんりち。今やてぃん見じーぬんせー、蟻ぐゎーや必ず虫ぐゎーや殺さーなかい、自分ぬ住ぐゎーんかい持っち行じ、冬ぬ食物んかい成んりぬ由来が有んりさ。
 とー、其れーなー、蟻ぐゎーぬ仇ぇ虫やんりち、今やてぃん其ぬ蟻ぐゎーや虫見じーねー合点のーさんり、蟻ぐゎーとぅ虫とー大変仇同士やんり。

(現代日本語訳)
 ハブと蟻の話をしましょう。
 山道に、ハブが渦を巻いて、人が通るのを待っていたんだって。
 そうしたら、蟻が、
「おい、ハブよ、貴方はどうしてそこに渦を巻いて人を待っているのか。」
と言ったそうだ。すると、
「近頃は、私の家も壊されて、山も全部壊されて、もう行く所も無い。この人間は、私達の家全て壊して、山も壊すから。ここから通る人間は、私が直に噛みついてやろうと待っているんだよ。」
と、蟻に言った。
「おいハブよ、貴方は何も分からない。人間は神様と同じなんだよ。人間を噛んだら一大事だよ。」
と言ったら、
「何だと蟻め、貴方はこんなに小さいのに、私に口答えをするのか。」
と。もう、ハブと蟻が喧嘩をしてしまった。
 もうこの、蟻はワジワジー(怒って)して、
「おい、蟻の親兄弟も全部来なさい。早くしなさい、喧嘩が既に始まっているよ。」
と、(皆を)呼び集めた。するともう、何万も、何千万もの蟻が来て、ハブの目や耳に、あちこちに入ってしまったら、そのハブは負けてしまって。
「アキサミヨーナー、こんなに苦しいって事もあるのか。その蟻は(いくら)落としても何処にも行ってくれないよ。」
と。転げ回っている所に、青虫が来て、その虫が、
「おい、ハブさん。貴方は知恵も無い。このような小さな蟻に馬鹿にされて、そんなに哀れをするのか。早いとこ、側にある溜め池に入って、その蟻を全滅させなさい。」
と言ったら。
「ああー、有難う。」
と言って、そのハブの側にある溜め池に入ったら、蟻は全部いなくなってしまった。
「あー、有難う虫さんよ、もー私は命が助かったよ。」
と、ハブは喜んだのだが、蟻は死んでしまった。この生き残った蟻の二匹、三匹が、
「もうこれは、仇を討たねばいけない。」
と、ワジワジー(怒って)してね。
「これはもう、虫が悪いのだから、これは虫が教えたことだから。」
と、虫を見ると蟻は、今でも皆を呼び集めて虫を噛み殺すんだって。今でも(虫を)見たら、蟻は必ず虫を殺して、自分の巣に持って行って、冬の食料にするという由来があるってさ。
 その話は、蟻の仇は虫で、今でも蟻は虫を見ると許さないそうだよ、蟻と虫とは大変仇同士だって。

概 要
 人間が山を破壊したのでハブの棲み処がなくなってしまい、ハブは怒って人間を噛んでやろうと山道で渦を巻いて人が通るのを待っていた。そこへ蟻が来てハブの言い分を聞いて、「人間は神様なのに、どうしてそんなことをするのか。」とたしなめた。そこで蟻とハブの喧嘩が始まってハブが負けそうになったら、次は青虫がやって来て「溜め池に入って蟻を退治しなさい。」と教えた。その通りにすると蟻は全滅してしまった。それから、蟻は仇を討つ為に親兄弟を呼び集めて虫を噛み殺して自分の巣に持って行って、冬の食料にするようになったという話だよ。


収録:琉球孤を記録する会