復元・ミーラーン天人

 

 イギリスの探検家スタインが、シルクロード西域南道の遺跡、ミーラーン M3 廃寺跡で発見した、4世紀初頭のものと思われるヘレニズム風の有翼天人像壁画は、その図版を見た宮澤賢治に並々ならぬ感動を与え、それは「雁の童子」を最高峰とする、かれの多数の作品群を生みました。

 しかし、現在インドのニューデリー国立博物館に保存されているこの壁画は、長い荒廃の年月と採集によるダメージを受けて、向かって左側の翼の先の部分が欠け落ちています。

 従来は専門家にのみ任されてきた復元作業ですが、もしバーチャル世界に限って言うならば、CGレタッチソフトを持っている私(のみならず誰であれ)が挑戦していけない理由はありません。

 そこで、断然試みました。大きなところだけ言えば、欠けていた右翼(つまり向かって左側)を、そっくり左翼をコピーし反転させて置き換えたのです。その他、細かいコピーアンドペーストの繰り返しで仕上げました。

 壁面の汚れや痛みはクリーンにはしませんでした。手に余るし、ぺたんとなって有難味が薄れそうでもあったからです(でもいつかやってしまいそう)。

 ベゼクリク壁画を復元したNHK「新シルクロード」とまで大それたことは言いませんが、一介の素人でもこうしたクリエイティブな楽しみができるようになったというのは、やはり IT 時代の賜物と感謝します。

 とはいえ、「心の眼」でありありと観じた賢治の方が、やっぱり偉いとは思います。

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参考文献:長澤和俊『シルクロード』(講談社学術文庫)

(松田寿男『砂漠の文化』(岩波書店同時代ライブラリー)カバー写真から取り込み、Adobe PhotoDeluxe でレタッチ)